東京ラウンドだけでは見極められない侍ジャパンの懸念点。建山義紀の野球「プロ目線」
WBCどこを見れば良し悪しが分かるのか?
最終的に重要になるのは「鈍感力」
――知っているかどうかで対策が変わってきます。
建山 そうなんですが、最終的にこういう大きな大会で大事なことは、そういうことすら無頓着になれるかどうかだと思います。僕は日本代表に選ばれたことがないのであまり偉そうなことは言えませんが、日本シリーズなど短期決戦、負けられないプレッシャーがかかる試合では、ある種の「鈍感力」を持つことができた選手が活躍できるように思います。
――鈍感力とは、どういうものでしょう。
建山 一種の開き直りですね。大舞台でいいプレーができるかどうかは、経験の有る無しが非常に大きなウエイトを占めます。でも、今回のWBCに関してそれを言ってしまってはどうしようもありません。なので、調子を度外視して開き直ることができるか、いい意味で鈍感になれるかが大事になると思います。
――鈍感力のある選手はいるでしょうか。
建山 僕がよく知っているのはファイターズの選手が多いですが、みんな意外と繊細なんです(笑)。中田(翔)選手も意外とマイナス思考の部分がある。
中田選手の活躍に関しては、最初の数打席、そこにかかっていると思います。本戦の早いうちに結果が出ればどんどん打ってくれるでしょう。そういう意味では、宮西(尚生)投手は開き直りがしっかりできるピッチャーだと思います。いいときでも悪いときでもそれなりに対応してくれる。調子のいい、悪いで起用を決めなくてすむ重要な投手だと思います。
――菊池選手などもそうした力を持っているように見えます。
建山 僕自身、菊池選手の内面的な部分や、試合へのアプローチを取材したことがあるわけではないのでうかつには言えませんが、雰囲気的にはそういうものを持っているので期待感があります。
――ここまでのお話で、最低限のコンディショニングができているので戦う準備はじゅうぶんできていること、そしてボールのアジャストに関して場所によって対応を間違えてはいけないことなどがよくわかりました。一方で重要なポイントに選手たちの「鈍感力」がある。ほかに「世界一奪還」を目指すときに必要なものとはなんでしょうか。
建山 先ほどお話しした部分とかぶってしまいますが、経験のある選手でしょう。経験とは自分なりに調子が判断できることです。ある形になったとき、自分の調子が悪いんだな、という「証拠」のようなものがある。それに対する打開策もある。そういう選手は強いです。その点、青木(宣親)選手の存在はものすごく大きいと思います。
――WBCの経験がある。
建山 それだけではありません。アメリカでプレーをしている中で、チームが何度も変わりましたがそのたびに調整をし、準備をしてきていること。そして、マイナーリーグでもプレーしていること。自分のコンディションが整えにくい中で、どうやって乗り越えていくかということに関してはいやというほどの経験があるはずです。特にマイナーの日程は本当に過酷です。その経験値というのはものすごく大きなものですから、今大会でもそれを生かして活躍してくれるだろうと思ってみています。
――マイナーは「これを乗り越えられれば、どんなこともできる」と思えるくらいの経験になる、と。
建山 はい。ひと言でいえば「本当にひどい日程」ですから(笑)。基本的に26連戦が6回続いてシーズンが終わるというのがマイナー。つまりコンディションを整えることが、まず無理な状況なんです。とすると、整わない中でどうプレーしていくかが重要になる。こういう状況の中で、「調子が悪いからどうしよう」と考えるのと「調子が悪くてもこうしよう」と考えるのでは、結果がまったく変わってくる。そうした思考はマイナーにいることで大きく養われます。僕は当初、川崎(宗則)選手がメンバーに入ったらいい、と思っていたのですが、それはそうした経験が力になると思っていたからです。
――なるほど、試合に臨むにあたって、最高のコンディションを作るということに重点が置かれがちですが、それは現実的につねにできることではないですから、調子が悪い中でも最大のパフォーマンスを出す方法を考えていく力、ということでしょうか。
建山 そうなんですよね。WBCのような短期決戦でこれだけ注目度が高いと、「ここにピークを持っていかなければいけない」という義務感が生まれてしまいます。それが選手にとってプレッシャーになってしまう。だからマイナーで「悪い中でもこうしよう」と考えられる選手が重要になるのです。
【次回は、WBCの「世界基準」選手。注目は元チームメイトの……3月16日更新予定】
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